あの時感じた温もりを、君に。(※恋愛短編小説)

FITTER EYES:服バカの遺言

こんにちは!お洋服ブロガーのゆうきです。

いつもブログを見てくださりありがとうございます!

普段の記事には書かない独自の視点や、個人的に良かった体験談等をシェアする「FITTER EYES:服バカの遺言」チャプター5です。

 

今回は初めての試みでオリジナルの物語を書きました。

「お洋服には人生を前向きに変える魔法の力がある」というモットーを、物語で感じていただこうという企画です。

ゆうき
ゆうき

紳士はカシミヤマフラーを持とう!が

一応のテーマなんですが、まぁそれは置いといて(笑)

純粋に物語をお楽しみいただけければ幸いです。

 

 

あの時感じた温もりを、君に。

俺の名は木村隆之、29歳。

システム開発の事業をしていて、コロナで大変だったけど何とか黒字化。今年で3期目だ。

俺には「さゆり」という彼女がいるんだけど、お互い仕事人間で月に1回も会わない時もある。

付き合っているのか微妙に感じる時もあるけど、今のところ俺たちの恋人関係は良好だ。

 

そんな俺たちは今月、初めて休暇を取って旅行する事になったんだ・・・

 

※人物紹介:木村隆之、29歳。

従業員10数名の会社を切り盛りしている若き経営者。

本人は自覚はないが不思議と周りの人に助けられる事が多く、2021年で3期目を迎える。

2020年10月に初めて黒字となり、もっと事業を拡大しようと充実した日々を過ごしている。

 

隆之は同業者の繋がりを大切にしていて、情報交換や交流を兼ねて食事に行く事が多い。

母親に似て面倒見がいい性格。社員1人1人との付き合いを大切にしている。

例えば夜遅くまで一緒に勉強したり、「大きなクモがいる!助けて~」と連絡してきた社員の家まで行って、クモを逃がしてあげたり(笑)

恋人のさゆりも仕事に打ち込む時間が長い為、会える時に会うというゆるい距離感で関係が続いている。

 

(※注記:以後、隆之の語り口調で綴っています)

 

鈴木さゆり、28歳。

さゆりは1つ下の彼女なんだけど、正直俺には釣り合わないくらいできる女だ。

 

仕事はボディケアや健康管理を行うセラピーサロンの経営。個人オーナーだ。

アロマセラピーやヨガ、栄養学なんかに精通していて、プロアスリートや経営者のクライアントさんが多い。

年上相手でもハッキリと自分の意見を言う性格で、それがあるお客様にめちゃくちゃ気に入られたらしい。

そこから紹介がどんどん広がっていき、今じゃ3か月先まで予約が取れない超売れっ子だ。

 

サロン経営の前はグローバル企業で働いていて、3年間の海外赴任も経験。

日本語・英語・ドイツ語を話せるトリリンガルで、最近はイタリア語を勉強している。1人で旅行したいんだとか。

あぁ他にも趣味で始めたヨガにのめり込んで、インストラクター資格まで取ってたっけ。

本人曰く「ヨガを始めてから体調が良くなった」らしく、毎朝のヨガは絶対に欠かさないらしい。

 

だからサロンの予約は午後から。日中は専属契約しているアスリートのボディケア、夜に経営者さんの施術らしい。

俺は(仕事をもらう魂胆もあって)同業者と飲みに行ってるのに、ホントできる女だよ・・・はぁ。

オマケにハーフみたいに整った顔立ち、モデル顔負けのスタイル。才色兼備とはこの事だ。

ま、しいて欠点をあげるなら胸が小さい事ぐらいだな(※失礼)

 

 

――さゆりとは先輩が開いた飲み会で知り合った。

俺が起業して1年くらいの時かな?

第一印象で何かオーラすげえなって感じて、あまり話せなかったんだよなぁ。

 

それでもあれだけの美人を周りが放っておくワケがない。

「さゆりちゃん、彼氏いないらしいぞ」ってウワサもあって、ギラついた野郎どもがいつもさゆりを囲んでいたんだ。

人気者は大変だなぁ~って横目に見ながら、俺は先輩と繋がりがある人を中心に顔を売る事ばっか考えてた。

どう考えても俺たちが付き合う関係になるハズなかったんだ・・・そう、あの時までは。

 

2020年8月、2人の馴れ初め。

コロナで花火大会が軒並み中止だから、先輩が「俺たちでやろうぜ!」と花火企画をブチ上げた。

もちろん万全な感染対策を行った上でだ。

だから10人ちょっとのしょっぼい花火だった。

 

あとで知ったんだけど、先輩が花火に呼んだ人は全員フリー。アンタ策士かよ(笑)

まあそのおかげでギラついた野郎の取り巻きもなく、さゆりと話す機会があったんだけど。

 

「よぉ!今夜はいつもより静かだね」

さゆり「そうですね(笑)」

「仕事は順調なんだって?先輩が鈴木さんのこと、できる子だって褒めてたよ」

さゆり「そうなんですか?でも私はまだまだですよ」

「謙虚だね~」

さゆり「そういう木村さんはどうなんですか?いつもいろんな人と仲良くしてますよね」

「えっ?ま、まぁボチボチかな(苦笑) 今年中には何とか黒字にできそうな感じ」

 

そんな他愛のない話だった。

お互い仕事ばっかしてるから、話すのはいつも仕事の話題。

でもそうやって誰かと話をする事で、コロナでしんどくても頑張らないと!って思えたんだ。

 

 

――日付が変わる頃に花火はお開きとなった。

先輩「じゃあ今夜はお開きで!家遠い人はクルマで送ってくよ~」

ってな感じで、ほとんどの人が先輩のクルマに乗り込んだ。

先輩「隆之はどうする?」

「俺は歩きで帰れるんで大丈夫っす」

先輩「おう!さゆりちゃんは?」

さゆり「私も大丈夫です。ここから近いですし」

先輩「そっか、じゃあ気を付けてね!来年は皆で花火大会行こうなぁ^^b」

 

先輩のクルマを見送った後、俺たちも帰路に就いた。

「鈴木さんもこの辺りに住んでるの?」

さゆり「うーん、2駅くらい先ですね」

「まぁまぁ離れてるなぁ(汗) 途中まで一緒だから付き添うよ」

 

帰り道では俺と社員のエピソードを話していた。

「ホントひどいでしょ?夜中に電話出たら”社長!クモが出たから助けてください”だよ?」

さゆり「アハハハ!子供みたいな社員さんですね(笑)」

「しょうがないから家まで行ったんだけど、全然大したことない大きさだったの。

でも”飼ってる犬が怖がってるから守るのに必死だった~”って言われて、まぁいいかってなってさ」

さゆり「木村さんはお人よしなんですね」

「よく言われるよ、お母さんみたいな性格だって(笑)」

 

 

・・・その時だった。さゆりが急に苦しそうに倒れ込んだんだ。

 

ドサッ!!

「えっ!?どうしたの?鈴木さん、大丈夫?」

さゆり「はぁ・・はぁ・・はぁ・・・」

「どこか気分悪いの?」

さっきまでとは打って変わって顔色が悪い。一体どうしたんだろう?

 

「と、とにかくどこか座ろっか?動けそう?」

さゆりは苦しそうに呼吸している様子だ。とりあえず座れるところに移せないだろうか?

さゆり「はぁ・・はぁ・・ごめん・・なさい」

「俺は平気。立つのしんどそう?」

彼女の目はなんとなく「うん」と言っている気がした。

こんな時、一体どうすれば?悔しいけど何も解決策が思い浮かばなかった。

 

「救急車呼ぼうか?」

そう尋ねるとさゆりは首を振った。

さゆり「だいじょう・・ぶです・・家で・・ゆっくりやすめば・・」

 

「だ、だけどすごく苦しそうだよ?」

さゆり「・・だいじょうぶです・・・家に」

あぁ~もう!今は強がってる場合じゃねぇだろ!

俺は少しイラっとしたが、本当にゆっくり休めば大丈夫なのだろうか?

 

「家に帰ってゆっくり休めば、本当に大丈夫?」

そう聞くとさゆりはゆっくりと頷いた。

申し訳なさそうな涙目だけど、なんとなく安堵した表情に変わった気がした。

 

よし!木村隆之、男を見せる時だ!

俺は気合を入れると、さゆりを背負って帰る事にした。相変わらず苦しそうだ。

タクシー見つけるまでの辛抱・・・と思ったんだけど、深夜だから見つからず。結局さゆりの家まで背負って行った。

もう無我夢中。さゆりをベッドに寝かせたところで俺の意識は途切れてしまった・・・

 

あの時感じた温もり、母の愛。

――なんだろう。目の前が真っ白な霧に包まれているみたいだ。

顔には凍てついた冷たさが感じられる。フッと息を吐き出すと真っ白だった。

「あれ?雪?」

景色が少しずつ鮮明になってきた。目の前には雪が降り積もる光景が広がっていた。

 

?「ほ~ら隆之、寒いだろう?」

誰だろう?後ろのほうから声をかけられた。とても優しい声だ。

?「今日は雪がたくさん降るからね。風邪ひかないように母さんのお守り貸してあげる」

そう言われると俺の身体はクルリと向きを変えられた。目の前には母さんがいる。

 

母「これはマフラーって言ってね、母さんが風邪ひかないように守ってくれるお守り」

隆之「まふらー?おまもり?」

母「そうよ~これがあると風邪ひかないの!あたたかいでしょ?」

隆之「うん!あったかいよ母さん!」

 

 

・・・これは昔の記憶だ。

俺が小さかった時、めちゃくちゃ雪が積もった日があったっけ。

雪景色を見て固まっていた俺に、母さんがマフラーを巻いてくれたんだ。

 

あのマフラー、母さんの匂いがして嬉しかったんだよなぁ。

毎朝母さんに「まふらー!まふらー!」ってねだって巻いてもらうのが楽しみだった。

母さんに巻いてもらうと、すっげえあたたかい感じがしたんだよな。

 

?「・・村さん!木村さん!」

今度は誰だ?そういえば肩を叩かれている感じがする。

?「木村さん!大丈夫ですか?」

この声は・・・鈴木さん?あっ!!

 

さゆりの秘密。

――ガバッ!!

さゆり「・・木村さん?やっと起きましたね」

「あ、あれ?鈴木さん?」

ガバッと飛び起きたものの、どういう状況かわからず俺はキョトンとしていた。

 

さゆり「昨日はご迷惑をおかけしてごめんなさい。助けてくださりありがとうございます」

「あ、あぁ~~大したことないよ。もう平気そう?」

さゆり「木村さんのおかげで^^」

「そっか、それは良かった」

 

元気そうなさゆりの顔を見て、俺は昨夜何とかなったんだと安心した。

さゆり「木村さん、助けてくださったお礼に朝ごはんどうですか?」

「あ、うん。ありがと・・う?」

周りを見渡してここがさゆりの家だと思い出した。俺の身体にはふかふかの毛布がかけられていた。

 

 

朝食後、さゆりはいろんな事を話してくれた。

元々身体が弱い事。

昨夜の症状はパニック障害で、今でも疲れが溜まると症状が出る事。

ヨガを始めてから症状が落ち着いた事。だから毎朝ヨガをやっている事。

病気の事を打ち明けてもなかなか理解が得られず、今では家族以外には話していない事。

成人してからこの事を話したのは俺が初めてという事。

 

初めて聞く話で動揺したけど、俺はひたすら聞き続けた。

安心させてあげられる言葉を返したかったけど、この時は何を言っても野暮に思えた。

誰にだって言いにくい悩みがある。それでも必死に生きようともがいている。

ただその事実を受け止めればいいんだ。彼女なりに頑張ってきたんだと信じてあげよう。

 

 

すべてを語り尽くしたさゆりは、今まで見た事がないとても穏やかな表情に変わっていた。

第一印象のさゆりとは全くの別人だった。

さゆり「ずっと聞いてくださってありがとうございます。しゃべり過ぎましたね」

「平気だよ。鈴木さん、今までずっと頑張ってきたんだなぁって思ったよ」

 

さゆりは今までずっと家族以外には相談せず、1人で抱え込んでいたのだろう。

病気持ちの自分に負い目を感じていて、それで周りの期待に応えようと努力し続けているのかもしれない。

だから初めて会った時、すげえオーラを感じたのかも。なんか張り詰めていると言うか。

きっと今の穏やかな表情が本当のさゆりなんだ。

 

さゆり「あの~どうしたんですか?」

「えっ!あ~ちょっと考え事^^;」

さゆり「もう~ジーっと見つめてくるからビックリしましたよ」

「あはは~寝ぼけてんのかな(笑)」

さゆり「え!わたしの話聞いてました?」

「それは大丈夫だよ!おっと、いけねっ!もうこんな時間か~俺会社に戻らないと」

さゆり「あ!長く引き留めてしまってごめんなさい」

「うぉ!会社の子から鬼電入ってたわ(;´Д`)」

 

 

――まぁそんな事がありまして。

この件以来、さゆりは俺の事をかなり信用してくれるようになった。

そして後日さゆりから告白されて、俺たちは付き合う事になったというワケ。

 

だけどお互い仕事人間で月に1回も会わない時もある。

それでも付き合っているの?って周りから言われるけど、今のところ俺たちの恋人関係は良好だ。

そんな俺たちは今月、初めて休暇を取って旅行する事になったんだ・・・

 

2021年3月、2人の休暇。

さゆり「わぁー!キレイだね♪」

「す、すげえ!」

さゆり「来て良かったでしょ?」

「おう!タイミングよく桜が満開で良かったな」

 

俺たちは京都に来ていた。

桜の開花が例年より早いというニュースもあって、たまたま桜が満開だった。

例年の見頃は4月上旬らしく、しかも1週間くらいしか続かないらしい。

俺はこの奇跡をしっかり目に焼き付けておこうと思った。

 

さゆり「ねえ隆之、インスタに写真載せたいから撮ってよ?」

「熱心だね~おっしゃ!プロカメラマンに任せなさい!」

さゆり「いつもピントぼけるクセに(笑)」

「うるせぇ(笑) それは演出だって言ってんだろ」

 

俺たちはいつもこんな感じの冗談を言い合える仲になっていた。

花火の時以来、さゆりが症状を起こした事はない。

そして前よりたくさん笑うようになっていた。

 

 

さゆり「これは水路閣っていうレンガの橋なんだって」

「す、すげえ!」

さゆり「さっきと同じセリフだね(笑)」

「ほっとけ(笑)」

 

さゆり「ね!ここのアーチが写真映えするんだよ~はい、撮影よろしく♪」

「へいへい」

さゆりはインスタで人気があるらしく、フォロワーが数万人いるそうだ。

主にボディケアとダイエットの情報を発信していて、男女問わず評判がいいらしい。

 

さゆり「どう?イイカンジ?」

「・・・」

さゆり「どうしたの?」

 

「待て!ちょっと動くな!」

さゆり「え!え!何?どうしたの?」

「お前の頭に毛虫が落ちてきたぞ!」

さゆり「キャーー!!はやく取って~ねえってば(@_@;)」

 

「・・・はいOK!カーット!!」

さゆり「・・はい?」

「アハハハハ~!毛虫はウっソ~♪最高のムービー撮れた(笑)」

さゆり「ちょっともうーー!」

「これでバズ確定だな(笑)」

さゆり「載せないもん( `□´)ノ」

 

 

――その後は近くのホットドッグ屋さんでランチしたり、動物園や美術館を巡った。

女の好奇心はパワフルだ。全部さゆりが立てた観光プランなんだけど、すさまじい詰め込みだ(汗)

身体が弱いってのもずいぶんと昔の事なんだろう。

 

夕方は予約を取っていたお店でコース料理を頂いた。

午前中に見た桜の景色や、美術館で見た芸術の感想なんかを、さゆりは嬉しそうに話してくれた。

心の底から楽しそうなさゆりの笑顔を見ていると、胸の奥がすごく満たされる気分だった。

 

食事を済ませて外に出ると、辺りはもうすっかり真っ暗だ。

ふと夜空を見上げるといくつかの星が輝いているのが見えた。俺たちの街とは大違いだ。

さゆり「星が光ってる~キレイ」

「そうだな。俺たちの街じゃ見れないもんな」

 

久々の星空に見入っていた俺たちに、冷たい夜風が吹き付けてきた。

ビューン!ビューン!と風音が聞こえるくらい、けっこう強い夜風だ。

さゆり「うわぁ~風つめたい!」

「うう~これはヤベえな!そういや京都は盆地だから夜冷え込むって・・・」

 

守りたい人ができたら。

――「に、2万円っすか!?」

?「そうですよ!あたたかくて肌触りが良いカシミヤですからね」

「なんでそんなに高いんですか?」

?「カシミヤは採れる量が少ないからです」

 

?「例えば木村さんが仕立てたスーツはウール(羊の毛)

羊1頭で大体スーツ2着分。でもカシミヤでスーツ1着分だと、山羊15頭くらい必要なんです」

「スーツ1着分で15頭すか!だから高くなるんだ」

 

?「そうです。カシミヤ山羊は-30℃でも生き抜く為、非常に細い毛を生やします。

その細い毛のおかげでウールよりも保温性が高くなるワケです。そして肌触りも気持ち良い」

「ふむふむ」

?「まあ確かに高いんですけど、それに見合うだけの価値があります。持っていると必ず役に立ちますよ^^」

 

「で、でも今の俺にはそこまで必要ないかなぁ」

?「まあ木村さん1人で考えるとそうかもしれませんね」

「え?どういう事ですか?」

 

?「マフラーはただの防寒具じゃないんです。

確かに寒さから守る役割ですが、もう1つの役割があります」

「もう1つの役割?」

?「それは木村さんの”守りたい人を守る役割”です」

 

?「ま、細かい話は置いといて(笑) とりあえず巻いてみましょう!

僕が住んでいる京都は盆地だから夜冷え込むんですよね~」

彼はそう言いながら、俺の首にカシミヤマフラーを巻いてくれた。

あれ?この感じ、どこかで・・・

 

 

――母「これはマフラーって言ってね、母さんが風邪ひかないように守ってくれるお守り」

隆之「まふらー?おまもり?」

母「そうよ~これがあると風邪ひかないの!あたたかいでしょ?」

隆之「うん!あったかいよ母さん!」

 

母さんにマフラーを巻いてもらった時か。

あの時、すっげえあたたかい感じがしたんだよな――

 

 

?「そういえば木村さん。彼女さんができたんですよね?」

「え?あ、はい。そうですね」

?「じゃあそう遠くない未来で、この子が必要になる時がきますよ^^」

「・・・・・」

 

あの時感じた温もりを、君に。

――今のはあれだ、俺のスーツの仕立て屋と話した時のだ。

さゆり「隆之?寒いよ~早く行こ」

我に返った俺はさゆりを見る。

寒そうに震えているさゆりの顔が、花火の時のようなつらそうな顔に見えた。

 

(俺はもう、さゆりのつらそうな顔を見たくないんだ!)

「さゆり、ちょっと待ってろ」

さゆり「え?」

 

そう言うと俺は巻いていたカシミヤマフラーを外し、さゆりの首にやさしく巻いてあげた。

かつて母さんが俺に巻いてくれた時のように。

あの時感じた温もりなら、さゆりを守ってくれると思ったからだ。

 

さゆり「わぁ~あたたかいね♪」

「奮発して買ったからな」

さゆり「へぇー!いつも同じ服着てるのに珍しいね(笑)」

「うるせぇ、文句あるなら返せコラ」

さゆり「エヘヘ~あったかいから私が使う^^」

「おい、ちょっ待てよ!」

 

さゆりは子供のような無邪気な笑顔で走り出した。

後ろを振り返ると、隆之が焦った顔で追いかけてくる。

この時さゆりは、隆之が普段から社員1人1人を大事にしている事を思い出していた。

(・・私、やっぱりこの人を選んで良かったんだ)

 

気が付くと隆之がさゆりを追い抜いていた。

「付いてこないなら置いてくぞ~!」

さゆり「おい、ちょっ待てよ(・∀・)/」

「真似んなよ(笑)」

 

 

―― THE END ――

 

 

あとがき:お洋服には人生を前向きに変える魔法の力がある

最後までお読みくださり、ありがとうございます!

初めての試みでオリジナルの物語を書いてみましたが、いかがだったでしょうか?

「お洋服には人生を前向きに変える魔法の力がある」という事を感じてもらえていたら嬉しいです^^

 

母親に似て面倒見がいい隆之は、困っている人を見ると放っておけないタイプ。

それが彼の強さであり優しさであって、それに惹かれて周りの人も力を貸してくれるのでしょう。

 

さゆりは才色兼備で仕事もできる、一見すると隙がないような人間です。

それは自分の弱さを隠す為でもあったのですが、隆之に話す事を通じてようやく受け入れる事ができたのでしょう。

2人の関係がこれからどうなっていくのか?それはあなたのご想像にお任せしたいと思います。

 

※2021年8月21日追記:隆之が登場する続編的なお話を書きました^^

 

 

P.S.隆之がさゆりに巻いてあげたカシミヤマフラー↓

ジョンストンズという女性ユーザーも多い英国ブランドのマフラーです。

真冬の強風にも耐える保温性を持っているので、1本あると冬が快適ですよ。

以上、服バカの遺言でした。 

 

最後までお読みくださり、ありがとうございます^^

 

 

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